
経営者はふだん仕事の効率化を念頭に、社内のしくみづくりに知恵を絞っていることでしょう。
経営において、数値を優先する考え方がしばらく続いていました。
しかし昨今、効率重視だけでは行き詰まってしまったために、人間的側面から働き方を見直す気運が高まっています。
以前、知人からこんなエピソードを聞きました。
「隣りの席に座っている社員が結婚したことを知らなかった。
本人が誰にも言わなかったので、部署の誰ひとり知らなかった」
というのです。
それくらい、社員個人のプライベートは職場では一切関係ない、という企業風土が当時のその会社にはあったのでしょう。
人間的側面でつながる
隣りの席の同僚がどんな人間なのかさえほとんどわからない状態で、仕事で協力して成果を上げようとするのは、実は効率的でもなければ楽しいことでもない、ということに、社会がようやく気づき始めています。
目的を持った集団がチームとして仕事に勢いをつけるには、互いの人となりをわかっていることが必要でしょう。
一緒に働く仲間が、プライベートではそれぞれどんなものを好み、どんな趣味があって、どんな所に出かけるのか、どんな人たちと一緒にいて、何を大事にして生きているのか、などを少しずつ知っていくことによって、親しみを感じたり、共通点を見いだしたり、繋がりが生まれたり、人間的な関係ができてきます。
相手のことを知れば知るほど、相手を気づかい思いやる気持ちも深まっていくのは自然なことです。
雑談が突破口
効率重視に偏り、人としてのコミュニケーションが排除された職場では、同僚にちょっとした相談や頼み事をするのも気が引けてできない、など、気詰まりでギクシャクした関係がはびこり、かえって非効率な仕事の仕方になっていることも珍しくありません。
こうした環境を打破する方法のひとつとして、社員の相互理解に力を入れる企業も増えています。
そこで行われているのが、たとえば雑談です。
わざわざ就業時間の一部を使って、社員同士が雑談するのです。
雑談ですから、ひとりひとりが仕事とは全く関係ない話をします。
週末に出かけたこと、孫が生まれたこと、子供の運動会のこと、最近買ったもののこと…
嬉しかったことや楽しかったこと、驚いたことやちょっと残念だったことなど、体験や気持ちをみなで分け合うのです。
慣れないうちは、例えばグループに分かれて、ひとり1分と決めて、順番に発言していきましょう。
慣れてくれば、もっと自由なやり方もできるようになるでしょう。
雑談すると自然に相手を知ることができ、互いの距離感を縮めるのにうってつけです。
雑談の効用
雑談できる環境は、これだけにとどまらない良さがあります。
自分の身に起こった悲しい出来事や失敗も、雑談の場で話せるということです。
自分だけで抱えていると辛い出来事も、人に話せるだけで救われるのが人間というものです。
嫌なことがあったら雑談として話してしまえる、ということが、社員の心の安定にまで寄与できる可能性があるのです。
実際に、雑談を盛んにして業績がV字回復した企業の例では、楽しい話題でみなが気分よく働けるようになっただけでなく、マイナスの気持ちも話すことで、心の負担を軽減できています。
社員同士のコミュニケーションが活発になると、職場の雰囲気が明るくなり助け合うことが増え、結果として生産性アップに繋がっていきます。
職場環境の改善を難しく考えず、雑談を取り入れてみてはいかがでしょうか。
もちろん、上司も隔てなく雑談の輪に入るのが鉄則です。
追伸:
伸びる会社の水面下で進行する
2つの密かな取り組み

脇田 優美子
