
あなたは人の話を聴く時、相手の何に注意を払っていらっしゃるでしょうか。
経営者は社内はもちろん、社外で目上の方々や重要人物とお会いしたり、取引先と大事な交渉に臨んだり、初対面の相手とやりとりしたり、話を聴く場面が多いものです。
やりとりの中で相手の意図を十分に汲み取り、最高の対応や回答を返すには、やはりそれなりの心得が必要です。
その心得次第で、どれだけ相手に喜んでいただきながら目的を達成することができるか、あるいは不届き者を退けることができるか、違いが生まれるのです。
話を聴くだけでは足りない
もしあなたが相手の話を真剣に聴いていたのに、なぜかその後のやりとりはあまり上手くいかなかったとしたら、それはおそらく、あなたが相手の話を聴いているだけだからです。
実のところ、話は聴くものというより、観るものです。
話というのは、聴いているだけでは半分も読み取れていないのです。
その浅い理解を前提に物事を進めればうまくいかないのは当然です。
2つの構えで臨む
話を観ることにはふたつの側面があり、少なくとも2つのうちの1つは自動的にできなくてはなりません。
その1つ目は、話している相手の振る舞いをよく観ることです。
目つき、目線の先、話の途中で一瞬口元が歪んだり、あるタイミングでは唇を噛み締めたり、といった細かい表情の変化。
座っている時の姿勢、身体の向き、前のめりで話しているか、椅子を後ろに引いて遠ざかっているか。
腕組みしているか、肘をついているか、手であごを支えているか。
指先を組んでいるか、せわしなく動かしているか、ペンやノートを弄んでいるか。
こうした半ば無意識に行われる話し手の動きは、その人のその時々の心の動きを如実に表しています。
「目は口ほどに物を言う」のことわざもあるように、言葉以上に相手の感情や心理状態を推し量る材料となるのです。
これらを注意深く観察することで、話されている内容の真偽や熱量などをとらえる習慣をつけましょう。
視覚情報の限界
ただし、眼で観る方法には限界があります。
自己演出の上手い相手は態度が洗練されており、言葉と振る舞いを一致させることに長けているからです。
たとえば詐欺師のような人間は、隅々まで油断なく取り繕っており、それがそうした人間の特技でもあるので、態度を観察するだけで相手の真意を見抜くことは難しいのです。
あなたがもし、過去に怪しい話に乗りかかったり、上手い話にだまされたりしたことがあるなら、彼らの巧みさを痛感されているのではないでしょうか。
ちなみに、詐欺師のような類の人間にはなぜ説得力があるのかと言えば、彼らは自己暗示が得意だからです。
自分で自分をだますことができるので、ゆるぎなく振る舞えるのです。
自分自身が思い描く通りの人間になり切っているのですから、他人をだますことは容易です。
このような人物があなたのビジネスの相手に出てくる機会はそうはないかもしれません。
しかし、そんな場合でも役立つ、もう1つの心得があります。
背後を観る
それが、相手の話の背後を観る、ということです。
別の言い方をすると、相手がこの場に至った過程、背後にあるものをとらえるのです。
相手はなぜそういう話をしているのか、相手の発する言葉の背景には何があるのか。
そういう物言いをするこの人物は、ここに至るまでにどのような経緯をたどったのだろうか。
どのような生い立ちや体験が、その人にそれを言わせているのだろうか。
これらは、相手が話しているその場ですぐに答えがわかるものではありません。
ですから、相手が話している最中は、あなたのいわば皮膚感覚で、自分の毛穴で、相手に対する謎や疑問や違和感を感じ取っておくのです。
その上で状況が許せば、さりげなく婉曲に相手にその点を質問してみることもできるでしょう。
しかし、相手に悪意があれば上手くはぐらかされてしまうかもしれません。
したがって、多くは持ち帰って考えるということになります。
考えるというよりも、実際には、手を尽くして調べるのです。情報収集です。
公になっているデータを確認するのは当然として、相手の経歴や私的な生活、過去と現在の交友関係等の事実を知っている人々を探して問い合わせ、自分の感じた判然としない点を突きつめて明らかにするのです。
できる限り、その人物を知る複数の人に直接会って話を聴くことが大切です。
対面のほうが本当の話を聴ける確率が高いからです。
経営者であれば、やりとりする相手の真の意図を理解する際に、この程度のことは当たり前にやらなければワキが甘いと言わざるを得ません。
交渉が上手くいかない経営者や、うまい話にしばしばだまされる経営者は、相手の話をただ聞いて鵜呑みにするだけで、話の奥まで読んでいないのです。
まずは相手の背景を十分に洗い出し、問題ないことがわかってから積極的に動く、という手順を省いてはならないということです。
双方にとって実りのある関係を築くにも、相手の背後を観ることはとても重要です。
相手の望む核心をとらえ、相手の期待を超える対応をすることで、協力関係を強化していくことができるのです。
話し手を注意深く観察し、その人物の背景を十分に調査する。
人の話を聴く時の心得としてください。
追伸:
優れた人材を引き寄せる経営者が
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脇田 優美子
