
経営者のあなたが、もし新人の離職率が高いことに悩んでいらっしゃるなら、この視点が抜け落ちてはいませんか。
若い社員が入社した時、あなたの会社では、まずどんな働きかけをしていらっしゃるでしょうか。
初めて社会人として働くことになる新卒の人、あるいはまだ社会人経験の浅い転職者を、いきなり現場に放り込んでいませんか。
経営者としては、新人にいち早く現場で仕事を覚えてほしいと思うかもしれません。
けれど、新入社員にとって最優先されるべきは、果たして実際の仕事を覚えることなのでしょうか。
心は別のところにある
新入社員に対して、自社の業務を理解させるところから教育を始めると、自分の仕事を覚えることで精一杯になりがちです。
新人というのは周りが見えず、自分のことで手一杯になるのはやむを得ない、と思うかもしれませんが、これは経営者の思い込みです。
仕事を覚え始めた社員は内心、なぜ自分はこの仕事をする必要があるのか、この仕事をしなければならない理由はなんだろうか、と思いを巡らせていきます。
言葉にできなくても、自分がこの会社で働く意味、自分がこの仕事をする目的をわからずに、いきなり実務を覚えるだけでは、心がさまよい始めるのです。
新人のこの気持ちに気づかずに、仕事から学べばよい、理屈など脇に置いて仕事をしていればわかってくるものだ、と軽んじる会社に若手は定着しません。
黙々と仕事すればよし、という時代はとうに終わりを告げているからです。
事業内容は関係ない
そもそも、若い人が応募すらしてこない会社も同様の課題を抱えています。
たとえ自社に堅実な実績があっても、優秀な技術があっても、その部分に惹かれて応募してくる人は意外に多くはありません。
これから社会に出て働く人や、社会人経験の浅い人にとっては、事業内容よりも働く意味、人生における仕事の意味のほうが、よほど重要な関心事なのです。
そういう事柄は個人で考えるべき話だ、と経営者が思うのは簡単です。
しかし、相手が知りたいと思うことを伝えずに、ただ仕事だけ覚えさせるのでは、人を育てていることになりません。
目的や意味が見えずに目先の仕事だけこなすようになると、業務に嫌気がさせば、それだけで気持ちが続かなくなってしまいます。
やる気が失せ、やがて辞めてしまうことになるでしょう。
経営者は、なぜ働いているのか、何のために仕事をしているのか、働くことの意味を言葉にして伝えられなければならないのです。
働く意味というのは根源的な問いであり、すんなりと答えの出るものではありません。
だからこそ、経営者自身が常に考えるだけでなく、幹部、管理職、社員とも意見を交わしていくべきものでしょう。
自社で十分に意見を交わした上で新入社員を迎え入れ、業務より前にそうした価値観を共有するのです。
理想としては、採用活動の段階から発信していければ、自社の価値観に共感する人々が集まるようになります。
誰でもいつかは業務を覚えることはできますが、意欲的に仕事に取り組み、会社を盛り立てる働きをする社員に育つには、働く意味が必要です。
経営者は、自社の事業そのもの以上に、ものの見方、考え方を伝えていくことが欠かせないのです。

脇田 優美子
