
経営者は、売上を伸ばそうとすると新規客を増やしたくなるものです。
行列ができる、さばききれないほど注文が殺到する、というのは、経営者であれば夢見る光景かもしれません。
あなたも日々、もっとお客様を集めるための様々な打ち手を考えていらっしゃることでしょう。
しかし、急激な新規客の増加が何をもたらすのかについてここで少し考えたなら、あなたの方針も今とは変わるかもしれません。
お客様が押し寄せるとどうなるか
まず、会社のリソースが今のままで、お客様の数だけが一気に増えたら何が起こるでしょうか。
社員の数も、仕事の流れも、商品やサービスの内容も提供方法も同じなら、当然ひどく忙しくなります。
忙しさを乗り越えるためには、販売方法を変えたり、生産体制を変えたり、残業も増やさざるを得ないでしょう。
混乱すると誰もが余裕を失い、現場でいろいろなミスが頻発するようになります。
お客様への対応は、これまでと同等の質が保てなくなります。
新規客を集めることでかえって優良なお客様が減ってしまうこともあるのです。
当然クレームも増加し、その対応にさらに人員と労力が割かれることになります。
社員が心身ともに疲弊してくるのは時間の問題です。
混乱が社外にも伝わり評判が落ちると、せっかく集めた新規客もすぐに離れていってしまいます。
必要な準備
準備もせずに急激に売れると、対応が必然的に後手に回り多くのほころびが出ます。
そのため、ブレイクの予感がすると、社員を増員したり、サービス提供の仕組みを変えたりと、準備を怠らない経営者もいらっしゃいます。
たしかに、なにも手を打たないよりずっと良いのですが、ここでも注意したい点があります。
そういうタイミングでにわかに入社させた社員は、理念の浸透がどうしても不十分です。
会社の様子もよくわからず仕事も覚えたばかりで、ましてや経営者の信念や事業理念を体に染み込ませるには時間が足りません。
やっつけ仕事になってしまうのは無理からぬところですが、新しいお客様から見れば、その社員もあなたの会社を代表しているのであり、ブランドの体現者と見なされるのです。
したがって、業務拡大のために陣容を大きくするならば、人の教育を集中して行うことが肝要です。
質の良い仕事は、ひとりひとりの社員の志から発するものです。その精神は、ベテランであっても新人であっても等しく持っているべきものです。
すべての社員にその理念や信条が宿っていれば、混乱した状況も何とか乗り越えられるでしょう。
反対に、それ無しで新規客を一気に増やす対策を打つと、たとえそれがヒットしても、夢の跡のような虚しい結果が待ち構えていることもあるのです。
お客様を増やしたいということばかりに意識がいって、大切な準備が抜け落ちないよう十分気をつけましょう。
追伸:
人材育成と戦略立案の秘訣

脇田 優美子
